記事・レポート

新しいリベラル政治とは?
ウェブ調査で浮かび上がる政治意識

橋本 努(北海道大学大学院経済学研究院教授)

1 | 野党支持率の低迷状況

 米国では、2021年1月にバイデン政権が誕生し、にわかに「リベラルな政治」が復活してきました。米国政府は、地球温暖化問題を受けて「パリ協定」に復帰し、中国に対しては「民主主義」の価値を掲げて対決する姿勢を示しました。それ以前のトランプ政権でみられた「保守主義」や「ポピュリズム」の政治は、急速に後退しています。

 米国におけるこうしたリベラル政治への転換は、日本にどんな影響を及ぼすでしょうか。また日本でリベラルな政治が復権するとすれば、それはどのように描くことができるでしょうか。

 最近の世論調査の推移をみるかぎり、日本でリベラルな政治を担うことが期待される諸野党は、どうも支持率の停滞が続いています。2009年に鳩山政権が誕生したときの民主党の支持率は42%以上でしたが、その後はしだいに低下、2013年に自民党の安倍晋三政権が誕生すると急落しました。以降は、10%を上回ることも時折ありましたが、おおむね10%を下回る支持率で今日に至っています(2016年に国民民主党へ改名)。

 また、現在の野党の最大勢力である「立憲民主党(2017年に結成された旧・立憲民主党および2020年に結成された新・立憲民主党)」は、当初は10%を上回る支持率を得ましたが、その後は低迷し、2021年4月21日のNHK世論調査では、6.3%の支持率です。

 現在、リベラルな政治を期待しうるいくつかの野党(立憲民主党、国民民主党、共産党、社民党、れいわ新選組)の支持率(NHKの同調査)を合算しても10.3%であり、これは自民党の支持率(37.4%)に、はるかに及びません。

2 | リベラルな中間層の不安定化?

 とはいっても、日本で「新しいリベラル政治」を期待する人たちは少なくないかもしれません。先のNHKの世論調査では、支持政党について「特になし」と答えた人は39.7%でした。支持政党がない人たちのあいだにも、リベラルな意識が広がっているかもしれません。

 シノドス国際社会動向研究所では、2017年から昨年までの4年間、独自のウェブ世論調査を重ねてきました。そのなかで「新しいリベラル層」と呼ぶことができる人たちの特徴をさまざまに分析してきました。詳しい調査結果については、同研究所のホームページに公開していますので、ご参看いただけますと幸いです。以下では、昨年の調査結果の中心的な部分について、ご紹介しましょう。

 私たちは次のような問題意識から、調査と分析を始めました。

 日本を含めた先進諸国では最近、「リベラルな中間層」の社会意識が不安定化しているのではないか。先進諸国においては、進歩的な中間層の人々がみずからの政治的な回路を見出せずに、流動化しているのではないか。

 

 そのような背景の一つに、保守主義の台頭があるでしょう。それまでリベラルな意識をもっていた人たちは、しだいに保守的な意識をもつようになったのかもしれません。あるいは、リベラルな意識をもった人は、従来型のリベラル派と台頭する保守派のあいだで、みずからの立場を明確にできずにいるのかもしれません。新しいリベラルな意識が芽生えているにもかかわらず、その意識はまだ明確になっていないのかもしれません。私たちはおよそ、このように推測しました。

3 | 新しいリベラルの特徴
そこで私たちは、さまざまな質問を用意して、人々の政治社会意識を「潜在クラス分析」という手法で析出しました。すると今回の調査(2020年、回答者数6,600人)では、人々の意識傾向を、7つのクラス(階層/かたまり)に分類できることが分かりました。

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 私たちは人々の回答傾向に即して、それぞれのクラスを、「新しいリベラル層」(19%)、「旧リベラル層」(6%)、「ライト保守層」(23%)、「コア保守層」(7%)、「非政治層」(23%)、「判断保留層」(15%)、「黙従傾向層」(8%)と名づけました。
 ここで「旧リベラル層」とは、日本でいわゆる「リベラル」と呼ばれる人たちです。日本は「絶対的平和主義」を貫くべきであり、「従軍慰安婦問題」については諸外国に対して謝罪しつづけるべきであり、「日米安全保障条約」はこれを破棄すべきであり、「象徴天皇制」はこれを廃止すべきである、と答える傾向にある人たちです。


 これに対して「新しいリベラル層」の人たちは、これらの問題に明快な答えをもっているわけではありません。ですが新しいリベラルの人たちは、外国人への対応などの点で、差別的ではない態度をとります。例えば、アルバイトを採用するときに、外国人と日本人のあいだで差別(区別)するかという問題に、新しいリベラルの人たちは「差別しない」と答える傾向にあります。
 また、孫世代の人たちに資産を残すか、それとも教育投資するかという問題について、新しいリベラルの人たちは、教育投資を重視する傾向にあります。


 加えて新しいリベラル層の人たちは、多くの組織で女性のリーダーを一定割合増やすべきだと考えます。さらに、人生のスタートラインについては、これを実質的に平等化すべきであると答える傾向にあります。このように、「女性リーダー」と「人生のスタートライン」に関する実質的な平等化の考え方は、保守的な人たちとは顕著に異なります。
 社会的な属性についてみると、「新しいリベラル層」は、女性がなりやすく、また、50代・60代の人、大学を卒業している人(+大学院卒)がなりやすいことも分かってきました。
 私たちの調査では、およそ以上のような特徴をもつ新しいリベラル層の人たちが、回答者のなかに19%いることが分かりました。


 なおこの調査で、「判断保留層」とは、アンケートでほとんどの質問に「どちらでもない」と答えるような人たちです。また「黙従傾向層」とは、ほとんどの質問に対して、選択肢の右端を選ぶような人たちです。いずれも、アンケートにしっかり答えていない可能性があります。かりにこれらの人たちを除くと、「新しいリベラル層」は、全体の24.7%になります。

4 | 普通の市民と政治をつなぐ
 今回の調査で明らかになったのは、「新しいリベラル層」と「旧リベラル層」の人たちの多くは、「支持政党がない」と答えていることです(それぞれ52.8%、49.5%)。これに対して「ライト保守層」と「コア保守層」の人たちの多くは、自民党を支持しています(ともに38.1%)。これはつまり、保守派の人たちは現在、自らの政治意志を政党政治に反映させる回路をもっているのに対して、リベラル派の人たちは、その回路をもっていないということです。現代の日本においては、リベラルな意識をもった人たちが一定割合存在するものの、その意識は国の政治に結びついていないようです。


 ここで「旧リベラル層」と「新しいリベラル層」の違いに注目すると、「旧リベラル層」の人たちは、自分が「リベラル」だと自認します。またデモに参加したり、署名運動をしたりと、政治的に積極的な行動をします。これに対して、新しいリベラル層の人たちは、自分がリベラルであるとはあまり自認していません。自分のイデオロギー意識は、リベラルと保守の「中間」であるとか、「分からない」と答える人が多いです。そしてまた政治行動については苦手で、積極的に行動しません。


 新しいリベラルの人たちは、日本ではごく普通の市民であるといえます。このような特徴をもつ新しいリベラルの人たちの意識は、どのような回路で国の政治に結びけることができるのでしょうか。
 例えば、新しいリベラル層の人たちは、「自己責任」という考え方に反対です。自己責任に反対する場合、しかし、だれが責任をもつべきなのでしょう。旧リベラル層の人たちは、多くの社会問題について、「政府」に責任があると答える傾向にあります。これに対して新しいリベラル層の人たちは、多くの社会問題について、「地域社会やボランティア・NPO」が責任をもつべきである、と答える傾向にあります。このように、新しいリベラル層の人たちは、政府(国)よりも地域や中間団体に問題の解決を期待する傾向があり、またそのような姿勢から、国政に対してあまり多くを求めないのかもしれません。

 

 ただその一方で、新しいリベラル層の人たちは、政府の政策に期待している面もあります。私たちは今回、次のような質問を用意しました。「50年後の日本人が世界的に活躍できるようになるために、政府はどの分野に今よりも力を入れるべきだと思いますか」と。この質問に対して、「新しいリベラル層」と「旧リベラル層」の人たちはともに、女性問題、貧困問題、および環境問題を重視していることが分かりました。これに対して「コア保守」と「ライト保守」の人たちはともに、経済力や防衛の問題を重視していることが分かりました。また、「新しいリベラル層」に特有の関心は、「高齢者問題」と「医療問題」であることが分かりました。
(これに対して「旧リベラル層」は文化・芸術の発展を、「ライト保守層」は科学技術を、「コア保守層」は治安維持を、それぞれ政策として重視していることが分かりました。)

 

 以上、簡単ではありますが、新しいリベラル層の人たちの特徴をいくつか紹介してきました。日本において、新しいリベラルな政治はいかにして可能なのか。この問題に答えるためには、ここで紹介してきた新しいリベラル層の人たちの政治意識を、政治的にくみ取る回路が必要です。それがいま、問われているのではないかと思います。